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効率ではなく、牛との暮らしを考えた酪農。

有限会社醍醐桜 三代目

山本 英伸

真庭市

岡山県にある、有限会社醍醐桜 三代目 山本 英伸 - 岡山県北の求人情報サイト「いーなかえーる」さんに、お話を聞いてきました。

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1真庭市にある酪農家の3代目です。

丸尾

有限会社醍醐桜3代目の山本英伸さんにお話を聞きます。こちらの醍醐桜はジェラートを売られているお店ですが、会社としてはどのようなことをされているのですか?

山本

醍醐桜は、もともとこの地域の5軒の酪農家が集まって始まりました。各酪農家から集めた牛乳をオハヨー乳業に納品していたのですが、近年、高齢化で酪農を辞めてしまう方が増え、最終的に、僕がUターンで真庭に帰ってきた頃には、この周りで酪農をしているのは山本家だけになっていました。

山本

現在は山本家のみで会社を運営しており、酪農をしながら牛乳をオハヨー乳業に納品する業務と、新規事業として立ち上げたジェラートの製造販売を行っています。運営店舗である「ジェラート醍醐桜」は2009年にオープンし、2019年の8月20日で10周年を迎えました。2年前までは津山市にある商業施設に支店を出していたのですが、現在はこの店舗での営業と、百貨店やスーパーなどの30店舗ほどにギフトとして卸しています。

2桃農家さんとともに生み出した、“ほぼ桃”のジェラート。

丸尾

ジェラートの商品開発は難しいですよね?

山本

冷凍ということ、ジェラートというものをつくるにあたって、いろいろ縛りがあるから、そこをどうやってクリアしていくかというのは難しいですね。

丸尾

縛りというのは、例えば何か検査をクリアしないといけないとか。

山本

そうですね。乳製品なのでクリアしないといけない衛生基準値が高いです。あとはジェラートの“なめらかさ”というのが、冷凍したときにどこまで出せるかというのが結構重要だったりもします。冷たいものってやっぱり風味とかが弱くなるので。

山本

そして、ジェラートは食べるときの素材の味がとても大切です。いかに素材の味を残してジェラートを作れるかがとても難しいのです。「岡山といえば桃」ということで一番最初に桃のジェラートを手掛けたのですが、本物の桃って、加工しちゃうと香りはほとんど飛んでしまうことが多いのです。なので、ジェラートとして牛乳と桃を混ぜ合わせたときにどうしても香りが消えちゃって、それで一度挫折しました(笑)。

中途半端なものを出しても仕方ないし、もう桃はやらないと決めた矢先、ある岡山市の桃農家さんと会うきっかけがあり、その桃農家の方から「うちの桃を使ってジェラートを作ってほしい」と言われました。その時は一度お断りしていたのですが、「どうしても!」と言われ、もう一度挑戦してみることにしました。

山本

果物を使うジェラートには、比率としては果汁を30%ぐらい使うのですが、その比率だと桃の味や香りが出ない・・・。桃農家さんは「もっと入れてみようよ!」と言われ、果汁を50%に上げたら、味はちょっとついてきたけど、ジェラート特有の滑らかさが欠けてしまい・・・また挫折しそうになりました。

でも、桃農家さんは「次は80%でやってみようよ」と言うので、・・・80%って、ほぼ生の桃を食べるのと一緒なんですよ(笑)。それに、この桃農家さんの桃は味が濃く、本来の桃の味がすごく出てくれました。ひとまず味はクリアしたのですが、あとは滑らかさがどうなるかと思っていたら、果汁50%のときより滑らかになってるんですよ。原因は分からないんですが、ちょっと限界を超えた方が、結構なめらかな仕上がりになるんだなということで納得しています(笑)。

桃のジェラートで最後の課題だったのは値段でした。清水白桃なので、原価だけでそれなりの値段になるのですが、ここは一回攻めてみようということで、1個670円で販売しています。

丸尾

結構、プレミアムなお値段ですね…!

山本

そうなんです。この桃ジェラートを商談会に出すたび、来た人たちに「美味しいね」って言ってもらえるんですが、初めはなかなか値段が言い出せず…(笑)。そんな中、天満屋さんでギフトとして取り扱ってくれることになったのですが、カタログの1ページに、大々的に桃ジェラートを載せてくださったんです。おかげで売れ行きが伸び、JR岡山でも「置いてみたい!」と声をかけてくださり、取り扱ってくださるお店が3店舗、4店舗と増えていって…それが現在も継続しています。実際には売れる場所では売れるというのが分かったので、強気で商談会に出ています。

3無香料、無着色。素材そのままの味を最大限活かすために。

丸尾

いろいろな素材を混ぜたジェラートをプロデュースされていますね。特にどのようなことに、こだわられていますか?

山本

うちでは無香料・無着色でジェラートを作っているのですが、素材の味をどうやって最大限活かすかという所に特にこだわっています。素材そのままの味を活かそうと思うと、一からとことんこだわらないといけないと考えています。B級品で安く集めてもジェラートに味が出ないし色も出ない。なので、果物に傷がつかないように輸送してもらったり、収穫段階で「こういう感じにお願いします」と指定をさせてもらったりもします。そういったやり取りは農家さんとの信頼関係があってこそできることですし、だからこそ良い食材をいただけているんだと思っています。

丸尾

ちなみに、コンテスト「ジェラートワールドツアー®ジャパン 2019 横浜」で発表された『黒文字ラテ』というジェラートは、32’s Cafeさん(岡山県新庄村を中心に活動されている移動式カフェ、新庄村の特産品を生かした食を提案など。)と一緒に開発したと伺いました。地域の方々とのコラボ商品にも、力を入れられているのですね。

山本

そうですね。数年前ぐらいから積極的に取り組むようにしています。
というのは、自社だけだとやっぱり社員数も少ないから、できる幅と知識量も限られてきます。いろんな人と連携することで色々な知識を付けることが出来るし、1人よりも商品のPR力も広げることができ、本当に良い経験になりました。

4悔しさから、「ジェラートの日本一」を目指した。

丸尾

ジェラートで全国各地のイベントに出店されているのを、新聞やニュースでよく目にします。いろんなところに出向かれているのも、結構忙しいですよね。

山本

そうですね。それこそ、初めてこの場所に「ジェラート醍醐桜」をオープンしたとき、圧倒的に認知度が足りなくて、集客が弱かったんです。そうなると売り上げも伸びなくて。悔しかったので、イベントがあるのなら県南だけでなく、関西圏や東京にもガンガン出ていってやろうと思って(笑)。イベント出店を重ねていくにつれて、大規模イベントでも結構トップクラスで売れるだけの販売力が身に付いてきました。

そんな矢先、僕が参加していたイベントに、ジェラート業界で日本一の人が出店していたんです。最初は何者か分からず、思わずその場で調べました。どうやら、ジェラートの世界大会でトップクラスの成績をとった人だったらしいんです。

今までそのイベントでは、醍醐桜のジェラートが冷菓の中で1位の売り上げだったのに、その人の登場によって2位になってしまったんです。すごく悔しくて、こうなったら僕もジェラートの大会で1位をとってやろうと火が付きました(笑)。

でも、ジェラートの大会自体があまり頻繁に行われていないようで、ないのか、ないのかと各方面に問い合わせまくりました(笑)。問い合わせ続けて1,2年経った頃、ようやく「こういう大会がありますよ」と連絡いただけたのが、2019年に開催された「ジェラートワールドツアー®ジャパン 2019 横浜」でした。

山本

予選が2019年4月に東京で開催されたのですが、勝ち抜いて本選の横浜大会に出させてもらいました。結果は残念ながら3位だったのですが、「おめでとう!」とトロフィーを渡してくれた人が、なんとあの日本一の人だったんです。「まさかこの人にトロフィーもらうのか…」みたいな(笑)。1位までは届きませんでしたが、本当に光栄なことでした。これをモチベーションに、またチャンスがあれば、上を目指して頑張りたいと思っています。

5大阪時代ある時、地元に帰ってみたら・・・。

丸尾

山本さんはUターンとお聞きしました。

山本

はい。出身は真庭市落合で、高校まで市内の普通科高校に通っていました。そのあとは、大阪の専門学校のペットビジネス科というコースに通いました。高校時代の友達はみんな大学に進学したんですが、自分も大学に行ってまでバリバリ勉強するのか・・?ともやもやしていました。

もともと僕は、「酪農を継げ」というのは一切言われていなかったんです。僕が学生の頃は景気も悪かったし、むしろやるなと言われていたくらいで…。どうせ勉強するなら好きなことに対して全力でのめり込みたいと思っていた矢先、その専門学校を見つけました。

1年生の頃、先輩が校内のトリマーのコンテストで優勝されたのがすごくかっこよくて、僕もそのコンテストに出てみたいと思いました。でも、通っていたコースではトリマーの勉強ができなかったので、先輩に弟子入りして修行して、2年生の時に大会に出場することができました。それがきっかけで、店舗の人に「トリマーのアルバイトに来ないか?」と声を掛けてもらえて、その後、就職までさせていただくことになりました。

5年目ぐらいの頃にチーフになったのですが、そろそろ独立するかと考えていた時期にふらっと地元に帰ったら、親父がすごく楽しそうに酪農の仕事をしてたんです(笑)。しんどい仕事のはずなのですが、実際に見たら笑顔で仕事をしていたのが、大阪に戻ってからもずっと印象に残っていていました。どうも気になるからもう一回地元に帰って、それまで一切何もやったことがなかった両親の酪農の仕事を手伝ってみました。

だんだんと興味が沸いてきて、とりあえず1年ぐらい続けてみたら酪農の方が全然性に合っているし、酪農から派生して何かやりたいなと思っていたらこのジェラートの店をオープンしちゃったし、もう大阪には戻れないなと。そんな感じで今に至ります(笑)。

でも・・・今から考えたら、大阪の専門学校に通っていた間も、どこか頭の片隅に「酪農」というワードが引っかかっていたような気がします。例えば乳製品を使って何か作ってみたいなと、ふわっとした興味レベルでしたが思っていましたね。

6大阪に出て、家業の「酪農」が誇れることだとわかった。

丸尾

とはいえ、大阪から自分の故郷に戻って酪農をやると決めたのは結構大きな変化ですよね。

山本

大阪に出たときに、『家業が酪農』という自分の生まれた環境について、大阪の人は「すごいね」と言ってくれたんですよ。「牛がいるの?!」みたいな。地元にいるときは当たり前すぎて、別にそんなにすごいことだとは思っていなかったのですが、「ああ、これは誇れることなんだな」と。自分にしかできないのかもしれないというのを思ったのも、地元に戻って酪農を手伝おうと思ったきっかけかなと思います。

丸尾

真庭に戻ってこられてから現在まで、10年ほど酪農を続けられているかと思いますが、酪農のどんな部分に良さを感じていますか?

山本

そうですね。やっぱり「何も言い訳ができない」というところが一番良いですね。
人によって考え方は多分いろいろで、仕事は仕事で、しっかり趣味を持とうねとかも、考え方としてはあると思います。だけど、僕は多分そうじゃなくて、仕事が人生のほぼを占めるんだから、仕事にどれだけ夢中になれるかという方が、僕は大事なんです。

山本

特に酪農だと、生き物を相手にした仕事なので、やればやっただけ自分に返ってきます。今日サボれば明日の仕事が増えるし、何をするにしても、全部自分に返ってくる。何かそういうのがやっぱり一番やりがいを感じます。誰にも言い訳できないし、誰かと競うわけでもないし、ただただ自分がその仕事をどこまでやるか。結構しんどいときもあるけど、楽しいし、やりがいではあるかなと思っています。

7牛との暮らしに、もっとこだわりたい。

丸尾

これからチャレンジしていきたいことはありますか?

山本

オープン当初から、「ジェラート醍醐桜」という店を、地元の人に自信を持って紹介してもらえるお店にしたいと思ってきました。都会で良い会社に勤めて、良い生活をして…というよりも、誰も知らない田舎から発信して魅力を集めて、たくさんの人たちを振り向かせたいという気持ちがあったので、これからもどんどん地域の魅力を見つけて発信していきたいです。

あと、2018年から新たな取り組みとして、『満月のギー(バターオイルの一種)』という商品を作っています。
ただ乳製品を売るだけでなく、『ギー』を通して、うちの酪農風景や環境を見せていくという新しいスタイルの販売方法なので、売り方とか魅せ方というものを少しずつ研究しています。多くの人に手に取ってもらえる場を広げていきたいなと思っています。

丸尾

『ギー』は放牧牛から作られていると聞きますが、酪農牛とは何が違うのですか?

山本

酪農は穀物が主食なんですけど、放牧では草が主食という違いがあります。
近代の酪農は効率よく多くの搾乳量が求められているため、穀物をたくさん食べさせていたのですが、うちの牛たちにはなるべく自生している牧草や、国産の牧草や穀物を与えるようにしています。そのおかげで牛たちが安産しやすく、爪の状態もすごく良いです。

山本

あと、日光の下で草を主食としているので、ベータカロチンとかが乳成分に出て、少し黄色を帯びた牛乳になります。一方で、草だけだと栄養価が少ないので乳脂肪分が低いのと、搾乳量も少ないため、どうしても高価な牛乳になってしまうのですが…。

丸尾

今までの既存の効率を求めるような酪農ではなく、牛の育つ環境も考えたチャレンジをされているのですね。

山本

そうですね。最近で高効率を求めて大規模化している牧場はどんどん増えてきてはいて。でも、僕は効率化よりも、牛との暮らし方をもっとこだわっていきたいと思っています。牛たちと地域で暮らしていける、仕事ができる環境をつくりたくて、これからも模索しながら進めていきたいなと思っています。

丸尾

最後の質問なのですが、日頃大切にされている言葉や想いなどをお聞かせいただけますか?

山本

僕がトリマーをしていた頃の師匠が言っていた、「継続」という言葉を大切にしています。継続がなければとにかく何もできない。あとは、世の中のいろんなことに一喜一憂しないように…とはいえ、やっぱりしちゃうんですけど(笑)。その辺に振り回されないように、ということですね。

効率ではなく、牛との暮らしを考えた酪農。

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有限会社醍醐桜

「醍醐桜」とは、地元、真庭市が誇る樹齢1000年の一本桜です。
私たちは、「自社のジャージー牛乳を誇りに持って、お客様に直接届けたい」「地元に根付いた商品開発を通し、全国に地域の事を知っていただきたい、訪れて頂きたい」そんな想いから、「醍醐桜」の名前をかりて、自社商品の販売を通し、精一杯の力で地域貢献に取り組んでまいります。

お話を聞かせていただきありがとうございました。地域の魅力として酪農を起点に、全国に発信をされる商品サービスにとても感銘を受けました。そして、大阪に出て、家業の「酪農」が誇れることだと気がついたとのお話がとても印象的でした。
規模や効率を求めるのではなく、生き物としての牛と向き合う酪農を目指すことで、これからすばらしい商品やサービスが生まれてくるのだと感じました。山本さんは大阪からUターンで、これからのローカルでの酪農を変えるかえーる人でした。

  • 取材日:2019年9月20日、2020年3月11日
  • 撮影地:有限会社醍醐桜(岡山県真庭市)、INN-SECT(岡山県津山市)
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