[Uターン・Iターン・移住]
いーなかえーるは、岡山県北の
求人情報をご紹介します

岡山県北で求人広告をお考えの企業様

[Uターン・Iターン・移住]いーなかえーるは、岡山県北の求人情報をご紹介します

繋がり、広がる、人と食。【山田ルーナ津山滞在記】

ワーケーション

繋がり、広がる、人と食。

取材・文:山田ルーナ

Living Anywhere Commonsメンバーで、ライターの山田ルーナさん。
LivingAnywhreCommons津山のINN-SECTを拠点にワーケーションしながら、津山滞在記を執筆いただきました。

 

山田ルーナさんの詳しい自己紹介はこちら
https://note.com/1137y/n/ndd6ddc5839b6

目次

プロローグ

4月末。取材の仕事で、岡山県の津山市に滞在した。ゲストハウス「INN-SECT」に5泊。仕事で来ているとはいえ、たまには家から離れ、知らない土地でひとり自由に過ごすのも悪くない。

 

とは言うものの、食事となると、話は別だ。ひとりで食事をすることも嫌いじゃないけれど、およそ15食それが続くことは、ちょっと寂しい。仕事以外誰とも会話しないのも、ちょっとしんどい。

滞在1日目。山に囲まれた盆地ならではの寒暖差にやられ、空腹なのに店はほとんど空いておらず、かなしい思いをしていた私はすでに、この状況がほとんど一週間続くことを覚悟していた。…この時はまだ、翌日以降に素敵な出会いが待っているとも知らずに。

 

これは、ほんの一週間の津山市滞在で、リレーのように繋がり、広がった、人と食のささやかな記録だ。

KIZOW

滞在2日目の夕方。仕事を終え、気分転換にお散歩に出かけると、一軒の気になる店を発見した。

 

 

KIZOW(キゾウ)」。

センスのいい和食器や服、そしてエスニックな雑貨が同調し、静かに佇んでいる。古民家を改装したのだろうか、現代的な雰囲気もあわせ持つ日本風の店内は どこか落ち着く空間で、ちょっと立ち寄るつもりが、私はついつい長居していた。

 

しばらくして、スタッフさんに「何かお探しですか?」と声をかけられる。(カメラ片手に店内をじっと見ていた私は、ちょっと怪しいに違いない。)「見ているだけです…」と申し訳なく思いながらそちらを見ると、にっこりとした素敵な女性。「KIZOW」オーナーの奥さまの、水野千香子さんだった。

 

千香子さんの優しい雰囲気がそうさせるのか、ひとり知らない土地へきた寂しさからか、しばらくお話しをさせていただく。オリジナルもセレクトも含め、「KIZOW」の商品は健康への想いを軸に、からだが本当に喜ぶような良質なものを集めていること。店舗は築200年以上の古民家で、環境に配慮して仕上げてあること。そして私と千香子さんが同郷という思わぬ共通点も見つけ、ご縁だなぁとしみじみ感動していると、オーナーの水野さんが出てきて、こうおっしゃる。

 

「今晩もおひとりなら、一緒に食事しましょう」

 

なんてありがたいことだろう。ご迷惑でないならと二つ返事でお答えすると、「気になっていたお店があるんです」と予約をしてくださり、津山市でもまだ新しいビストロにご一緒することになった。

 

津山市の温かい人でつなぐ「美味しい」の連鎖が始まった。

bistro CACASHI

向かったのは、「bistro CACASHI(ビストロカカシ)」。

 

2019年にオープンした隠れ家的レストラン。大阪出身、ノルウェー帰りのシェフが、地元の食材を生かした北欧料理を提供する。奥さまがこちらのご出身ということで、Uターンでの開店というわけだ。

 

驚いたのは、その料理の美しさと、質の高さ。

聞くと、自分の畑で採れた野菜なども使っているそうで、すべてのプレートに生き生きとした魅力を感じる。シェフはワインやチーズにも詳しく、お料理を引き立てるサイドメニューも充実していた。

 

またこのご時世なので感染対策も気になるところだが、あらかじめ人数分にプレートを分けてくださるなど、食事を心から楽しむための細かい配慮がうれしい。そういう点も含めて、すっかり好きなお店になってしまった。

 

店内は、名作Yチェアなどインテリアにもこだわりを感じられ、シックでお洒落。こんな空間で、最高のお料理をカジュアルに楽しめるのだから、すごい。近所にあったら必ず通っているだろうなと、プレートが運ばれてくるごとに、私は津山市民を羨ましく思っていた。

 

「美味しい」時間は、会話も弾む。「KIZOW」オーナーご夫妻のこれまでのことや、これからのこと、健康への想いを伺い、私はKIZOWが展開する蕎麦屋「生そば 日進月歩」を絶対に食べなくてはと、心に決めた。

 

すると、千香子さんがおっしゃる。うちのお蕎麦屋さんもいいけれど、津山市なら和菓子の「鶴聲庵」さんがおすすめですよ。

 

調べてみると、滞在している「INN-SECT」にかなり近い。私は、翌日さっそく「鶴聲庵」に行ってみることにした。

 

鶴聲庵と津山城

「鶴聲庵(かくせいあん)」は、創業80年以上の老舗和菓子店。添加物を使わずにつくられる数々の和菓子は、華やかというよりはむしろ控えめな品の良さがあり、地域の人に愛されつづけている。

 

 

やさしそうなご主人が、静かに迎えてくださる。「初めてきたんです」と話しかけると、丁寧に、和菓子の説明をしてくださった。迷いつつも、ふたつ選ぶ。「今日はお天気がいいから、津山城まで行くといいですよ」と見送られ、私はその言葉のまま、津山城を目指すことに。

 

 

桜の名所である津山城。その頃すでに桜の見頃は終えていたが、新しい春の気配が爽やかで、思わず深呼吸したくなるような、穏やかな時間が流れていた。和菓子をいただくことにしたのは、上りきったところにある、藤棚の下のベンチ。

私が選んだのは、桜餅と草餅だ。やさしい味わいは、からだを柔らかく包む春風のようで、私はひとりなのに微笑んでしまうほど、うれしい気持ちになる。

津山市を見晴らすことができる場所で、季節を感じながらいただくのもまた、最高の贅沢だと感じた。

 

コーヒースタンド福寿湯

せっかくなのでもう一軒、城東界隈で気になっていたお店まで足を伸ばすことに。

 

 

「コーヒースタンド福寿湯(ふくじゅゆ)」は、昭和初期まであった銭湯「福寿湯」を改装してできたコーヒー屋だ。この自粛期間にマスターが自分の手で掘り起こした、実際に使われていたというタイル張りの湯船が、なんとも趣深い空間をつくっている。

 

私が素敵だなと感じたのは、30代前半のマスターが、地元でお店を開いたきっかけについて。

銭湯を改装してコーヒー屋にするというアイデアは、一見お洒落で尖ったセンスにも感じられるが、実は「自分のおじいさんやおばあさん、地域の方が集まる場所をつくりたくて」オープンした場所なのだそうだ。だから、コーヒー屋としてだけでなく、近い将来発掘した湯船を使った「足湯」を計画しているという。そうすれば、より幅広い世代の方が、一緒になって楽しめるだろうと、マスターは楽しそうに話してくれた。

 

津山市の場所ではなく人が好きというマスターの笑顔を見ていて、私はすでに、その意味がとてもよく分かるような気がしていた。

生そば 日進月歩

さて、そこからはしばらく仕事をしていたのだが(そのために来たので…)、滞在もあと少しというところで、ついに「生そば 日進月歩」へ。

「日進月歩」への入り口は、「KIZOW」の店内にある。先日「KIZOW」に伺った際、飲食スペースは見ていなかったので、私はその空間にまず感動してしまった。一枚板の卓を中心とした、和モダンな雰囲気だ。

 

 

「豆御前」のもりそば(¥1,100)を注文。蕎麦以外に、そば豆腐、ソバロアというオリジナルメニューがつくこの御前は、お昼過ぎには品切れの可能性もある人気のメニューだ。

メニュー表には、各メニューのこだわりや、蕎麦に関する豆知識などが書かれている。ご主人の言葉によると、蕎麦の味わいは、繊細で、はかなく、秒単位で変わるのだという。とにかく急いで食べること、との注意書きを確認し、私は撮影もそこそこに、いただくことにした。

 


 

感想を述べる前に断っておきたいのが、この滞在記はお店の依頼ではなく、100%私の主観で書かせていただいている。だから、これも私個人の意見なのだけど、「日進月歩」のお蕎麦は、本当に、私が人生で食べたどのお蕎麦よりも美味しかった。

つけ汁も とても美味しいのだけど、お蕎麦自体が甘いので、まずはそれだけで食べてみてほしい。お塩で、もしくは山葵で。蕎麦本来の香りを楽しみたいと思える逸品だ。

 

 

サイドメニューからも、蕎麦へのこだわりを強く感じられる。そば豆腐は、食感が面白く、噛むほどに口の中で香りが広がる。一緒に頼んだ冷酒は、島根県松江市 李白酒造の、特別純米酒。そばにも、そば豆腐にも、相性がいい。岡山県の地酒ももちろん美味しいのだが、「日進月歩」でいただける日本酒は、この一種のみ。ご主人が自分の足で探して本当に合うものを見つけているのだろうと、こういうところからもこだわりを垣間見ることができる。ソバロアも、名前だけでなくセンス抜群のお味で、大のお気に入りになった。「ミシュランガイド京都・大阪+岡山 2021」でミシュランプレートに選ばれているというのも、納得である。

 

実は「日進月歩」へは、一度では食べ足りず帰る直前にも伺ったのだが、二度目も同じ感想を抱いた。いや、むしろ、もっと美味しく感じたような。
食べるほどに魅力が深まるような不思議な味わいは、日々まっすぐ蕎麦と向き合い、追求しつづけるご主人、水野さんの姿が、まさに反映されているからかもしれない。

 

 

以上が、「KIZOW」をきっかけに始まった、美味しいご縁の話。
ほんの一週間のうちに出会った、すてきな人たちの笑顔と、おいしい食べ物たちの記憶。…私はそれらに、いつかきっと再会するだろうと、確信に近い予感をもっている。

 

また会いたい人、また食べたいものに出会えたことを、かけがえのない財産だと大切に思いつつ、お腹いっぱい幸せいっぱいで、私は津山市を発った。